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濃度による細胞活性の差

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前コラム「幹細胞培養上清液による表皮細胞活性」では、幹細胞培養上清液によって細胞の移動の速さが活性化することがわかりました。

 

幹細胞培養上清液の濃度が違うと、細胞の移動の速さに差はでるのでしょうか?

今回は、幹細胞培養上清液の活性が濃度依存で向上することをのか否かを実施、検証しました。

 

【幹細胞培養上清液:濃度別細胞遊走実験】

 

■実験目的

・培養上清液を濃度を分けて添加した細胞群と添加していない細胞群で、細胞に傷をつけたときの遊走*1(=細胞の移動の速さ)の違いを検証

 

■実験の方法

「創傷治癒アッセイ」=細胞を培養している状況下で、細胞がいなくなった場所に細胞が移動する様子の経時変化を観察し、細胞の遊走や増殖を評価

 

<具体的な実験の流れ>

1、細胞が容器内充分増殖するまで培養する

2、細胞の増殖を確認した後、先端が尖ったもので容器内の一部を削る

3、幹細胞培養上清液を濃度依存的に調製し、細胞に添加した後、インキュベーター(*2)に入れる

 ※今回の実験では、下記6パターンの添加度合いで実施

  ①幹細胞培養上清液:添加無し

  ②幹細胞培養上清液:5%添加

  ③幹細胞培養上清液:10%添加

  ④幹細胞培養上清液:25%添加

  ⑤幹細胞培養上清液:80%添加

4、24時間後~48時間後の間で細胞を観察し、各パターン別の遊走度合いを確認する

 

■濃度別活性度合いの結果

 

①添加無し(Ctrl)
②培養上清液 5%添加
・48 時間後、「①添加なし(Ctrl)」と比べて、1.1 倍の遊走能が見られた。
・72 時間後、「①添加なし(Ctrl)」と比べて、1.2 倍の遊走能が見られた。
③培養上清液 10%添加
・48 時間後、「①添加なし(Ctrl)」と比べて、2.4 倍の遊走能が見られた。
・72 時間後、「①添加なし(Ctrl)」と比べて、2.7 倍の遊走能が見られた。
④培養上清液 25%添加
・48 時間後、「①添加なし(Ctrl)」と比べて 3.2 倍の遊走能が見られた。
・72 時間後、「①添加なし(Ctrl)」と比べて 3.7 倍の遊走能が見られた。
⑤培養上清液 80%添加

・48時間後、添加なし(Ctrl)と比べて6.7倍の遊走能が見られた。
・72時間後、添加なし(Ctrl)と比べて8.7倍の遊走能が見られた。

 

 

上記実験2から、幹細胞培養上清液の濃度が高くなればなるほど、細胞活性が高くなることがわかりました。

 

幹細胞培養上清液添加なしと、80%の濃度で添加したときに、どれだけ細胞が活性化するのか、下記動画で比較いたしました。

 

 

*1 「細胞遊走(セルマイグレーション:cell migration)」とは、細胞が元にあった場所から他の場所に移動することを指し、細胞移動とも呼ばれます。たとえば、表皮にできた傷が治癒する「創傷治癒(ワンドヒーリング:wound healing)」の過程において、この細胞遊走が見られます。

 

*2 細胞を培養するためには、まずはそれぞれの培養に適した温度・湿度・気体組成を整えることが重要となります。どこの研究施設でも、細胞はインキュベーター(培養器)と呼ばれる機械の中で培養されます。インキュベーターとは、空気調整機能付きの保温器です。